本荘第一病院

サービス：
診療・検診科目：
免疫療法 / その他

当院は日本経済の高度成長下労働運動の高揚期にあって地域の住民よりも職員の待遇に比重が置かれる風潮のあった時期に、病院は医療水準が一定以上のものであれば一番大事なことは、患者さんに対するサービスであり、地域の住民に基盤と重点を置いて医療を展開しなければならないとして1988年7月2日設立した。従って当初から「地域と手をつなぐ医療」という理念を掲げて出発した。これを実現する手段として地域住民の中から委嘱した評議員会及び給食検討委員会を二本の柱にして意見を聞きながら病院の運営を展開してきた。




1. 癒しの川研究と実践
2. 消化管内視鏡および腹腔鏡下での胃癌の手術
3. 股関節全置換手術
4. 免疫内科における掌蹠膿疱症の治療
5. 眼科専用手術設備下での白内障手術
6. 心不全の早期診断と治療、管理
7. 運動型疾病予防施設でのメタボリック症候群の治療
8. 予防医学と健康増進

掌蹠膿疱症治療

掌蹠膿疱症は「治る」病気です
掌蹠膿疱症は手の平（手掌）と足底を中心に、無菌性の膿疱を特徴とする発疹が繰り返し発生する病気です。「原因は不明。治療法はない」といわれ、難病の一種とみなされてきましたが、わたしは患者さんの体内でおこっている代謝障害と免疫機能の異常を手がかりとして研究し、患者さんではビタミンBグループに属するビオチンが欠乏していること、鎖骨、肋骨、脊椎、骨盤のなどの骨を高頻度に変形、破壊、石灰化すること、また、糖尿病、免疫グロブリンA腎症（IgA腎症）、クローン病、潰瘍性大腸炎、慢性甲状腺炎などを併発しやすいこと、そしてこれらの病変はビオチンの投与で治癒することを解明しました。

臨床的な特徴
わたし達の体は口や鼻を通じて体外から入ってきた病原菌やウイルスを攻撃して、守っています。この働きを免疫といい、病原菌やウイルスを抗原といいます。この抗原が体の中に入り込みますと抗体がつくられ、抗原を破壊したり、活動できないようにしたりしてしまいます。抗体には5種類あって、それぞれ免疫グロブリンG、A、M、E、Dと呼ばれています。このうちAタイプの抗体が手掌や足底を中心に沈着しますと、米粒大の膿疱が多発します。表皮細胞同士が融合して形成した水疱から、皮膚の厚い手掌や足底で膿疱を形成します。
膿疱は手掌、足底に左右対称性に生じる場合が多いですが、手掌または足底だけの場合やや、左右どちらか一方だけの病変のこともあります。
足背や下肢、肘関節、膝関節、頭部などに尋常性乾癬様の銀白色の鱗屑をつけた紅斑を伴うこともあります。
注　尋常性乾癬…頭、肘、膝、腰、殿部に好発し、炎症性の厚い銀白色の鱗屑を伴う紅斑で、病変部の境界が鮮明な角化症
　　鱗屑…皮膚の角層が厚くなって、脱落する前の状態

膿疱の中や周囲の組織には白血球が浸潤しているだけでなく、免疫グロブリンAが沈着しています。また、爪に白濁や変形をともなうこともあります。
女性患者ではしばしば掌蹠膿疱症に手湿疹を合併することがありますが、手湿疹の場合通常痒みを伴います。妊娠中の女性では胎児の発育のためにビオチンを消費してビオチン欠乏を生じるため、病状が増悪することがあります。また、流早産したり、奇形児を出産したりすることもあります。
発生学的に皮膚と同じの鎖骨、胸骨、肋骨、脊椎、骨盤などの骨膜に免疫グロブリンAが沈着しますと、掌蹠膿庖症性関節炎を発生します。さらに腎臓、膵臓、腸などに沈着しますと、それぞれIgA腎症、糖尿病、クローン病、潰瘍性大腸炎を併発します。
さらにビオチン欠乏でブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸の代謝にも異常を発生して、糖尿病、IgA腎症などを誘発することから、掌蹠膿疱症は皮膚だけの病気ではなく、全身病といえます。
多くの場合、皮膚の病変は憎悪と寛解を繰り返しながら悪化します。
注　寛解…病状が一時的に良くなること

また、胸骨肋骨部や脊椎、骨盤に有痛性の腫脹や圧痛を生じるために身動きができなくなり、骨のレントゲン検査で骨の変形、肥大、硬化、破壊が認められるようになります。また、脊椎には骨棘ができて、病変が進行すると椎骨同士がつながり（ブリッジ）、竹筒様の背骨（強直性脊椎炎）になってしまうので、背中を前屈したり、伸展したりできなくなってしまいます。
掌蹠膿疱症性骨関節炎にはSAPHO症候群の別名があります。また、欧米では膿疱性乾癬の1型と見なしている者もいます。
実験的にラットやイヌをビオチン欠乏状態にしますと、すべてが掌蹠膿疱症や合併症に類似した状態になります。

ビオチン欠乏を生じる原因
わたし達の腸内には100兆個、500種類に及ぶ細菌が定着していて、腸内細菌叢を構成しています。これらの細菌はお互いに共生または拮抗しながら、摂取した食物や消化管から分泌された体液成分を栄養源として増殖し、排泄されています。腸内細菌叢の構成は大便の性状から推測することができます。
ビオチンは腸内細菌によって十分な量が作られていますので健康な人では欠乏を生じませんが、掌蹠膿疱症の患者さんでは腸内細菌叢の構成に異常があって、繁殖するためにビオチンをどんどん消費してしまう「悪玉菌」優位の状態になっているため、ビオチン欠乏をおこしてしまいます。
多くの患者さんで頻回の下痢や緑色や黒味がかった色の下痢状の便が発病に先行していること、「悪玉菌」の発育を抑制する整腸薬の併用投与で血清中のビオチン濃度の上昇と高値の維持、治療効果の増強は腸内細菌叢の構成の異常が掌蹠膿疱症の発病や病状の憎悪に密接に関連していることを示しています。
妊娠中の女性患者では胎児の発育にビオチンが使われるため、ビオチン欠乏を生じ、掌蹠膿疱症の病状が増悪したり、流早産したり、奇形児を出産することがあります。
ビオチンは食物中に含まれていますのでビオチン欠乏はおこらないと考えられていますが、食物中のビオチンは食物中に含まれている蛋白質と結合している「結合型のビオチン」のため、腸から吸収されません。
治療
ビオチンによる治療は、歯痛に対する鎮痛薬のように即効的ではありません。手の発疹の改善には、約60日、足底の発疹の改善には7～8か月、骨の病変の改善には病変の程度により2～3年から数年を要します。体の中の代謝障害や免疫異常を正常化し、再発を防ぐため通常2～3年間治療しています。
手掌や足底の病変に対しては外用療法として希釈したステロイド軟膏を塗擦していますが、病状が改善すれば塗擦を中止します。

治療上の注意
喫煙は患者本人だけでなく、周囲の人たちの喫煙（受動喫煙）は煙草に含まれているニコチンを分解するのにビオチンが消費されてしまうため、治療効果が妨げられてしまいます。多量の飲酒もアルコールを分解するためにビオチンが消費されてしまうため、治療効果が妨げられてしまいます。生卵の白味にはビオチンの腸からの吸収を妨げてしまうアビジンという蛋白質が含まれていますので、卵を加熱してから食べてください。実験的にビオチン欠乏状態の動物を作成する場合、餌に生の卵白を加えています。
また、サプリメントや健康食品、カルバミド基やウレイド基の化学構造をもつ薬品も腸からのビオチンの吸収を妨げてしまいます。

ステロイドホルモン薬、免疫抑制薬、ビタミンAの誘導体（エトレチナート）は効果がないだけでなく、服薬を中止しますと「跳ね返り現象」をおこして、重篤な病気を発生する発病の原因として慢性扁桃炎や歯科金属アレルギーが考えられて、扁桃摘出や歯科金属の除去が行われていますが、効果はありません。
まとめ
ビオチンは腸内細菌によって十分な量が作られていますので、健康な人では欠乏を生じませんが、掌蹠膿疱症の患者さんでは腸内細菌叢の構成に異常があり、悪玉菌優位になっているために、ビオチンが消費されてしまい、ビオチン欠乏をおこしています。
多数の患者さんで頻回の下痢が発病に先行していること、抗生剤や整腸薬の併用投与で血清中のビオチン濃度の上昇と高値の維持、治療効果の増強は、腸内細菌叢の構成の異常が掌蹠膿疱症の発病や病状の増悪に密接に関連していることを示しています。

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ドクター紹介

前橋　賢
担当科目：免疫内科
東北大学医学部卒業
東北大学院医学研究科修了後　同大学医学部付属病院に勤務。
その後、国立療養所秋田病院副院長を経て青嵐会本荘第一病院に勤務。
医学博士。内科認定医。内科指導医
（内科医としてネイチャー、ランセットに論文、発表）

基本情報

住所 秋田県由利本荘市岩渕下110google map
電話 0184-22-0111
FAX 0184-22-0120
メールアドレス seiran@mail.edinet.ne.jp
病床数 160床